土地を借りて建てられた建物は、俗に「借地権付き建物」と呼ばれています。
この種類の不動産は通常の土地や建物に比べて、より低価格で購入することができるという特徴があります。
ここでは、借地権付き建物のメリットや注意点、そして売却方法について詳しくご説明いたします。
借地権付き建物とは?
不動産売買情報サイトでよく見かける「借地権付き」という表記について、詳しく説明いたします。
この表記は、不動産物件の一種であり、一般的な不動産物件とは異なる特徴を持っています。
一般的な不動産物件に比べて、借地権付きの物件は通常、購入価格が安くなる傾向があります。
借地権付き建物とは、土地を借りて建てられた建物のことを指します。
通常、家の所有というと、土地と建物の両方を所有しているイメージが一般的です。
しかし、借地権付き建物の場合は異なり、建物を所有しているが土地は借りている状態です。
借地権付き建物が市場に流通している理由はなぜでしょうか?これは、土地の所有権を持っている地主にとってメリットがあるからです。
地主にとってのメリットとしては、自身が所有する土地に他人が所有する建物があると、相続税の評価額が低くなるため、相続税対策になります。
また、借地権を設定することで、地主は建物の売却による利益を得るだけでなく、土地を貸すことで安定した収入を得ることができ、節税効果も期待できます。
これら複数のメリットがあるため、地主は借地権付きの建物を所有することを選ぶのです。
借地権付き建物を所有することは、土地と建物の両方を所有することとどのように異なるのでしょうか?具体的なメリットと注意点がイメージしにくい方も多いかもしれません。
そこで、今回は借地権付き建物に関する理解を深めたい方や、借地権付き建物の購入や売却を考えている方向けに、分かりやすく借地権の定義や種類を解説していきます。
借地権とは
借地権とは、建物を所有するための土地の利用権または土地の賃借権のことです。
借地権を持っている場合は、定期的に地主に地代を支払うことで、その土地に建物を建てたり利用したりすることができます。
借地権には「地上権」と「賃借権」の2つのタイプが存在します。
地上権は、土地を自由に利用する権利を意味します。
つまり、地主の許可なしに建物を建てたり、売却したりすることができます。
逆に、賃借権を持っている場合は、地主の承諾がないと建て替えや売却はできません。
さらに、土地を転貸するにも地主の承諾を得る必要があります。
借地権者と地主との間で合意されることで、地上権か賃借権かを選択することができます。
一般的に市場に出回っている借地権付き建物の大部分は、賃借権が付与された物件です。
したがって、土地の売却や転貸を行う場合には、地主の許可が必要です。
なお、借地権の対義語として、土地を貸す権利を持つ「底地権」という言葉があります。
土地の所有権を持っている場合、借地権と底地権の両方を持っていると言うこともできます。
借地権には種類がある
借地権は、地上権と賃借権という分類以外に、土地の契約時期に応じて3種類に分けられます。
旧法借地権
もし1992年8月1日より前から土地を借りている場合、その土地は「旧借地権」という制度の下にあるとされます。
旧借地権は、土地の借りられる期間である「存続期間」が建物の種類によって異なるという特徴があります。
たとえば、木造の建物の場合は30年間、堅固な造りの建物の場合は60年間など、それぞれの建物によって決められています。
また、旧借地権は建物が老朽化し、社会的・経済的に価値を失うという場合には権利が消滅してしまうという点もあります。
つまり、建物が使えなくなるなどの理由で土地を借りる権利がなくなってしまうわけです。
しかし、旧借地権には契約更新という手続きがあります。
契約更新を行うことで、旧借地権を引き継ぐことができます。
これにより、土地を借りている側は半永久的に土地を借り続けることができるわけです。
以上のように、旧借地権は土地を借りる側にとって非常にメリットのある制度と言えます。
存続期間が建物の種類によって決まっており、契約更新によって継続することができるため、ずっと土地を借り続けることが可能なのです。
普通借地権
借地権に関する法律改正により、1992年8月1日以降に新たに導入された権利の中には「普通借地権」というものがあります。
この改正が行われた背景には、従来の借地権が土地を貸す側にとって不利益な要素が多く、地主たちの反発が強かったという経緯があります。
普通借地権の存続期間は、契約当事者が30年以上と定めた場合、その期間が適用されます。
特別な定めがない場合、権利の存続期間は30年とされ、30年よりも短い期間の定めは無効とされます。
また、建物の劣化によってその価値が低下した場合でも、借地権は自動的に消滅しません。
更新が行われた後の借地権の存続期間は、最初の更新時には20年、その後は10年とされています。
当事者がこれよりも長い存続期間を定めることも可能ですが、逆にこれよりも短い存続期間を定めることはできません。
定期借地権
借地借家法には、普通借地権以外にも「定期借地権」という権利が存在します。
定期借地権は、借地契約で定められた期間が50年と非常に長いため、更新することができません。
この特徴から、定期借地権のついた土地は、旧式の借地権や普通借地権のついた土地に比べて安く売られる傾向があります。
ただし、存続期間が終了した時点で、土地を地主に更地の状態で返さなければなりません。
つまり、借地契約が終了する際には、建物を解体する費用が発生する可能性があります。
借地権とは?借地権付き物件のメリット・デメリットを解説 もご覧ください。
借地権付き建物のメリットとデメリット
実際に借地権付き建物のメリットとデメリットはなんでしょう。見ていきましょう。
メリット
借地権付き建物を持つことには、以下のようなメリットがあります。
安く購入できる
借地権付きの物件は、所有権付きの物件と比べると、土地代を一括で支払う必要がないため、購入時にかかる費用を抑えることができます。
このため、初期費用を少なくすることができるため、資金計画を立てやすくなります。
また、低予算で一戸建てに住みたい人にとってもおすすめの選択肢となります。
所有権付きの物件と比べて、借地権付きの物件は購入価格が安くなる傾向があるため、低予算で一戸建てを購入したい人には特に適しています。
税金を抑えられる
借地権付き建物は、土地と建物の両方を所有する場合と比べて、固定資産税や都市計画税において税金の負担を軽減する利点があります。
なぜなら、固定資産税や都市計画税は、建物部分にのみかかるからです。
しかし、建物に対する固定資産税や不動産取得税については、支払わなければなりません。
長期にわたって借りられる
借地権には期限が設けられており、普通借地権の場合でも最低期間は30年となっています。
このため、借地権は長期的に利用できるものです。
さらに、借地権を更新することで利用期間を延ばすことも可能です。
地主は、建物が長期間使用されていない場合や地代を支払っていない場合などの正当な理由がない限り、更新を拒否することはできません。
もしも地主が正当な理由なく居住者に立ち退きを命じる場合は、地主は立ち退き料を支払う必要があります。
そのため、借地権を持っている場合には、住み続けるうえでのリスクは比較的低いと言えます。
デメリット
借地権付き建物には、購入価格が安いといったメリットがありますが、メリットもあります。
地代を払わなければいけない
土地を借りる場合、毎月地主に地代を支払う必要があります。
この地代は、アパートやマンションを借りる際に支払う家賃に似ています。
一般的に、借地権の場合、地代は、その建物を所有するときに発生する固定資産税や都市計画税の約3倍程度になります。
借地権付き建物に住むことで、地代の支払いが必要ですが、一方、土地の所有権を持つ必要はないため、固定資産税や都市計画税の支払いは不要です。
ただし、建物の住宅ローンが残っている場合は、返済額と地代の両方を支払う必要があるため、注意が必要です。
リフォームには地主の承諾が必要である
土地に借地権が付いた建物を大幅に改修や建て替えをする場合や、土地を他の人に譲渡や売却する場合には、地主の許可が必要になることがあります。
簡単な改修であれば問題ありませんが、大規模な変更を行う場合は、事前に地主と相談することが良いでしょう。
無許可で改修を行った場合、契約違反となってしまう可能性があります。
また、改修の許可を得たとしても、増改築に関する料金の支払いが求められることがあるので、留意しておきましょう。
銀行の融資が受けられないことがある
銀行の融資を受ける際、借地権付きの建物を取得する場合は、融資が受けられない可能性があることがあります。
その理由は、土地部分の所有権を借り入れる本人が持っていないため、土地と建物を両方所有している場合と比べて、担保評価が低くなる傾向があるからです。
ただし、定期借地権の新築マンションであれば、融資を受けることが多いです。
したがって、銀行の融資を受けるためには、新築マンションの定期借地権を検討することをおすすめします。
借地権付き建物の売却方法
借地権付き建物を購入して、将来的に売却することを考えている人もいらっしゃるかもしれません。
借地権付き建物を売却する場合には、借地権そのものを売却するケースや、建物と一緒に物件を売却するケースなどがあります。
それぞれのケースについて、詳しく説明していきます。
借地権を地主に売る
借地権は通常、地主から購入したものとして扱われます。
買い手が借地権を取得すると、地主に返すことで売却することができます。
借地権を取り戻すと、地主は底地権と借地権の両方を所有することになります。
これにより土地の資産価値が上がり、地主にとってもメリットがあります。
そのため、売却は円滑に進むこともあります。
さらに、この方法では、借地権のみを売却するか、建物と一緒に売却するかを選択することができます。
ただし、借地権のみを売却する場合、建物を解体して更地にする必要があります。
解体には費用が発生するので、注意が必要です。
借地権を第三者に売る
地主の了解があれば、借地権は地主の承認を得るだけでなく、他の人にも売却できます。
通常、地主の許可を得るためには、承諾料を支払うことが一般的です。
地主は自分の地代収入を失うことになるため、追加の条件を設けることもあります。
承諾料は、借地権の売却価格の約10%程度で設定されることが一般的です。
また、借地権は個人だけでなく、不動産会社にも売却することができます。
承諾料を差し引いても、地主に売却するよりも高く売却できる場合もありますので、一度試算して検討することをお勧めします。
等価交換後に売る
もし土地の広さが十分にあるのなら、借主が所有している借地権の一部と地主が所有している底地権の一部を同じ価値で交換し、その後所有権を得てから土地を売却することもできます。
この方法では、所有権を得た土地を売ることになり、借りていた時よりも土地の価値が高くなるので売却による収益性が高いことが多いです。
ただし、この方法は地主と借主の両方が所有権を持つという利点があるものの、地主と交換比率の交渉や土地の測量を行う必要があるため、時間や手間がかかることを覚えておいてください。
借地権・底地権を第三者に売る
地主と借主がそれぞれ所有している底地権と借地権を組み合わせ、一つの所有権として第三者に売ることができます。
この場合は、地主との交渉が必要ですが、土地の資産価値が高くなり、売却が容易になる可能性があります。
ただし、地主にとっては土地は財産であるため、手放すことは難しいと言えるでしょう。
借地権付き建物にまつわるトラブルと対処法
もしも借賃権付き建物について調べている場合、地主とのトラブルについて心配されることもあるかもしれません。
この場合、一般的に起こりがちな問題とそれに対処する方法を紹介します。
地代のトラブルと対処法
建物を購入したとき、地主が地代を値上げしようとしてくる場合があります。
地代が上がっても、地主との関係を悪くしたくないので、なかには断れない人もいます。
しかし、地代を値上げするためには、特定の条件が必要であり、借主と地主の合意も必要です。
地代を支払い続ければ、契約は維持されるため、地主からの値上げ交渉には慎重に対応する必要があります。
事前に借地権付き建物の売買契約書に地代の値上げに関する特約を入れておけば、トラブルを避けることができます。
更新のトラブルと対処法
借地権の更新の際、一般的には更新料を支払うことが求められることが多いです。
ただし、厳密に言えば、更新料は必ずしも支払わなければならないものではありません。
実際には、契約書に明示的に更新料に関する記載がある場合のみ支払う必要があります。
したがって、もしも高額な更新料が請求された場合には、支払う必要はありません。
契約を締結する際に、更新料に関する条項が存在するかどうかを確認し、地主と話し合うことによってトラブルを回避しましょう。
立ち退きのトラブルと対処法
地主が相続によって変わった場合、存続期間内であっても、借主は突然の立ち退きを命じられる可能性があります。
地主の変更が原因で起こるトラブルは、特に頻繁に発生します。
ただし、借主は契約違反がなく、長期間にわたって建物を利用している場合など、正当な理由がない限り、立ち退きの要求を拒否しても問題ありません。
借主は、自身の法的権利を守り、適切な対処を行うべきです。
まとめ
借地権がついた建物を購入すると、価格が安くなったり固定資産税が低く抑えられたりするメリットがあります。
しかし、地代を支払う必要があったり、リフォームが制限される場合もありますので注意が必要です。
しかし、契約時に注意すればよくあるトラブルも解決できることが多いので、購入する際には地主と入念に話し合いましょう。
また、借地権付き建物の売却方法にはいくつかの選択肢があります。
一部の方法では地主に承諾料や解体費用が発生する場合もありますので、それぞれの売却方法の注意点を押さえることが重要です。
自分に合った売却方法を選ぶためには、複数の選択肢を比較することが大切です。